AIに設計を任せない。壁打ち相手として使い、判断は人が持つ
コラム 2026.10.10
「射出成形のリブ厚は?」と尋ねれば、AIは「基本肉厚の約50%」と返してきます。その数値で仕様を確定してしまうと、何が抜け落ちるのか。ここに、AIを設計にどう組み込むかの分かれ目があります。
推奨値は、検討の入口でしかない
AIの回答は特定の評価軸に偏りがちです。成形性の観点では妥当でも、強度・構造・金型加工性・組立性・コストとのトレードオフは検証されていません。製品固有の条件に照らす作業は、人が引き受けるしかない領域です。
一問一答型の依存が招く、3つのリスク
設計根拠が不透明になる
樹脂の冷却収縮や構造応力といった物理メカニズムを自分で理解しないまま決めるため、不具合が起きたときに「なぜその仕様にしたのか」を語れません。責任の所在も曖昧になります。
評価軸が偏り、局所最適に陥る
単発の回答は特定の視点に寄ります。実際の設計に不可欠な複数軸のトレードオフ検証が、まるごと抜け落ちます。
DRで妥当性を説明できない
論理的に説明できない設計審査は形骸化します。類似トラブルを未然に防ぐ力も、組織から失われていきます。
AIと設計者の役割を、はっきり分ける
AIが支えること 見落としや別案を挙げる/メカニズムや根拠を説明する/検証項目の候補を示す
設計者が担うこと 製品固有の条件を定める/計算・試作・評価で確かめる/仕様を決定し、根拠を添えて説明する
たとえばリブ厚なら、①候補を得る → ②その理由を聞く(ヒケの発生要因など)→ ③材料・形状・成形条件と照合する → ④必要な検証を決める、という順で進めます。AIの説明と設計条件に食い違いがあれば、追加の計算・試作・評価で確かめます。
人もAIも育つ、共創ループをつくる
- AIが壁打ち相手になる 物理メカニズムや多角的な評価軸、見落としがちな複合要素のチェック視点を出す
- 設計者が検証し、判断する 鵜呑みにせず製品条件と照らし合わせ、根拠を持って最終仕様を決める
- DRで評価する 判断の過程が記録されているので、審査が論理的な場として機能する
- 結果をAIへ還元する DRでの判断結果や不具合対策のロジックを追加学習させ、組織の暗黙知を形式知にする
このループが回り始めると、設計品質の平準化と若手育成という2つの成果が同時に進みます。判断の過程を残すことが、次の設計と次の世代への資産になります。